構想を練る
| 「映画を作る」という行為自体は決して難しい事ではありません。カメラとフィルム、あとは気力さえあれば誰でも映画は撮れます。ただ、「良い映画」「価値のある映画」を作るのは途方もなく難しい事です。 ちなみにここで言う「良い映画」「価値のある映画」とは、「自分にとって良い映画か」「自分にとって価値のある映画か」という意味です。勿論、人にとって価値のある映画を撮れればそんな素晴らしい事は無いんだけど、アマチュアレベルでの映画製作でそういう色気を出すと結局は失敗する事が多いんです。故にまずは己を知り「自分は何が好きでどういう物を撮りたいのか」を幾度と無く自問自答することから私の映画製作は始まります。まずは自分ありき。人様がそこに価値を見いだすか否かは別問題ですね。 しかしながらこのある種の「自分探し」って実は非常に困難だったりします。様々な映画に触れ、あらゆる影響を受けてきた為か「自分は一体何が好きなのか」「何を作りたいのか」、その一番重要な部分の輪郭がボヤけてなかなかハッキリ見えてこないんです。例えば自分の好きな映画。アクション好き、バイオレンス好き、ホラーも好き、人間ドラマも好き、コメディも好き、前衛も好き。それではこの中で一番好きなのは？と問われると頭を抱えてしまうんです。いっその事全部を融合させて１本の作品にしてしまおうか、と思ったりもするんですが、そういう事すると映画が炸裂します。 今までの自分はその多くの選択肢の中で「前衛好きの自分」という物を全面に打ち立てて映画作りを進めてきたんですが、ここ数年になって「確かに自分は前衛的な映画も好きだけど、これって自分が映画を作る上で最も適した題材なんだろうか？」という疑問符が沸き上がってきました。結局の所、前衛的な映画を作ることで「知的な自分」を演じてきただけなのではなかろうか？といった感じですかね。 「知的な映画」と「知的ぶった映画」というのは根本的に違う物です。少なくとも自分という人間は決して知的な人間ではないし、そういう人間が知的を装うのってかなりみっともない事ですよ。映画は「制作者を映し出す鏡」でもあるわけですからもっと素直に、気負わず、ナチュラルに、自分らしく、自然体でいかなくてはと思い、最近になって自分の映画作りの路線を若干軌道修正しました。 それでも部分部分で「野心家の自分」が顔を出し、時折自分を見失う事があります。「野心」とはすなわち「人に誉められたい」「みんなに認められたい」といった意識の事です。しかしながら、こういう意識に支配されると映画はどんどん醜い物になっていきますね。人が誉めたり認めたりするのは「結果」であって「目的」にしちゃいけないんですよ。だからこういう自分が顔を出した時には「等身大でいいじゃない、気楽にいこうよ」と何度も何度も自分に言い聞かせてます。 話が脇道に逸れたので本題に戻りましょう。 一つの方向性が定まった段階で、私は取り敢えず何をするでもなく自分の中から作品のインスピレーションが沸いてくるのを待ちます。プロじゃないんだから強いて映画を撮る必要は無い訳で、撮りたい題材が無ければ撮らなくたっていいんですよ。で、そのインスピレーションはある日突然やってきます。いわゆる「ピンとくる」って奴ですな。これが来ると頭の中は自作のイメージで埋め尽くされます。錆びていた頭の中の映写機がゆっくりと回り始める感覚ですね。 この辺は人それぞれなんですけど私の場合、何か題材を決めて肉付けし、ウンウン唸って頭からイメージを絞り出す形での映画製作って苦手です。過去そういう形で何本かの映画を撮った事もあったけど、残念ながら１本も完成まで漕ぎ着けませんでした。今現存する完成形の自作は全て頭の中から沸いて出たインスピレーションに沿った形で製作された物ですね。それが作品として優れているか否かは別問題ですが「絞り出したイメージ」より「沸いて出たイメージ」の方が具体化し易いし集中力も持続するんです。 この段階で既に映画の全体像はかなりハッキリ見えてきますが、インスピレーションだけでは撮影段階へ突入出来ません。まず、イメージのところどころが虫食い状態になっているのでその部分のツギハギを行い、つじつまの合わない部分があれば若干修正し、また具体化不可能な部分があれば排除していきます。頭の中のイメージ通りに撮れればそれに越したことは無いんだけど「地球が大爆発する」なんてイメージが沸いても具体化出来ませんから。この段階で自由奔放なイメージもかなり制約される形になってしまいます。この辺はアマチュアレベルの悲しさですが、具体化出来ないイメージは切り捨てるしかありません。 ここまで来ると「自分の頭の中」では１本の映画が完成します。頭の中の映写機で何度も何度も上映し「これでいける！」という確信が持てたところで次のステップへ移ります。 |