THE BLUE HEARTS
| ザ・ブルーハーツというバンドの存在を知ったのは彼らがメジャーデビューする直前の宝島誌での紹介記事。既にインディーズから７インチシングル「人にやさしく／ハンマー」がリリースされてたものの聴いた事はなく、一体彼らがどんなジャンルの音楽を目指しているのかすら知らなかった。 第一印象は小汚い４人組だなって事だけ。ただ、記事を見ればもう大絶賛で、前記の「人にやさしく／ハンマー」が歴代インディーズヒットチャートの記録を塗り替える勢いで売れてるという事実を知ったんだな。そしてパンク・ロックバンドだと言う事も。 メンバーの写真を見る限りパンクと呼ぶにはあまりにもソフトタッチな面構えで、従来のパンクバンドが持つトゲのような鋭さが感じられなかった。そんな事もあり彼らのアルバムを初めて聴くのはメジャーデビューから３ヶ月余り経過した頃なんだけど、貧乏性の俺は取り敢えずファーストアルバムのCDをレンタルで借りたわけ。 １曲目「未来は僕等の手の中」のドラムソロから始まる導入部を聴いた瞬間ガツンときた。そして歌詞に触れた時脳天をカチ割られた、というより心臓を貫かれた気がした。あまりにも赤裸々で飾りのない言葉の洪水。とにかく従来のパンクのみならずロックと呼ばれる全ての物とは全く異質な物を感じた。 よく言われる事だけどブルーハーツの楽曲には人生応援歌というパブリックイメージが定着してる。ただ、俺が思うにブルーハーツの曲には応援歌と呼ばれる歌が持つポジティブな明るさが欠落してる気がする。むしろ、もっとダークでネガティブな低い位置から叫ぶ負け犬の遠吠えのような情けない歌といった感じか。 それを最も強く感じたのは「ハンマー」。ファーストアルバムを聴いた数日後に購入したシングル盤のＢ面に収録されていたこの曲の、コーラスを担当したギターのマーシーが絞り出すような声で叫ぶ一説。 外は春の雨が降って 僕は部屋でひとりぼっち とにかくこれはロックの歌詞じゃない。と言うか、ロックミュージシャン全てが禁句としてきたような言葉だと思う。同様にファーストアルバムの２曲目に収録された「終わらない歌」にもこういう一説がある。 世の中に冷たくされて ひとりぼっちで泣いた夜 もうダメだと思うことは 今まで何度でもあった ホントの瞬間はいつも 死ぬほど怖いものだから 逃げ出したくなったことは 今まで何度でもあった 「ひとりぼっちで泣いた」、「もうダメだ」、「死ぬほど怖い」、「逃げ出したくなった」、これらのセンテンスは全てロック界のタブーでしょ。こういった剥き出しの歌詞をアップテンポでビートの利いた楽曲に乗せた時、そのアンバランスさから生み出される応援歌を越えた強烈なソウルが初期ブルーハーツ最大の個性であり魅力だと思う。 以後、数多く現れた亜流バンドが一時期もてはやされつつパッとしないまま消えていったのも、ブルーハーツのみが持つこのソウルフルな部分を持ち得なかったからじゃないか、と俺は解釈してる。そして、一歩間違えればポーズと取られがちなこれらの言葉がブルーハーツの楽曲では極めてリアルな物に感じられる不可思議さ。 その後知った事だけど、ギターのマーシーはブルーハーツ結成以前に在籍していたブレイカーズというバンドの、ドロドロした救いのない解散劇からヒロトとブルーハーツ結成を誓い合うまでの期間、地獄のように絶望的な日々を送ったらしい（ロッキング・オン・ジャパン89年10月号に関連記事が掲載）。恐らくはそういった実体験からくる劣等感、孤独感が初期ブルーハーツの楽曲に大きく反映され、リアリティのある言葉として昇華されているんだろうな。 だからこそ、なんだけどブルーハーツの楽曲に触れると力がみなぎってくる。自分なんかよりもよっぽど大きな不幸を背負った人間が命をかけて後押ししてくれてるような気がして。「頑張れよ、辛いのはお前だけじゃないんだから」ってね。 所詮、人間なんて弱い生き物だから、精神的に打ちのめされ辛くて苦しくて悲しくて、どうしようもなく救いを求めたくなる時がある。そういう時、俺はブルーハーツの曲を何10回でも何100回でも聴き返す。そして、すり込むように何度も何度も聴く事で少しづつ元気を取り戻せるの。 特に辛い時よく聴く曲は「ハンマー」、「終わらない歌」、そして「人にやさしく」。「人にやさしく」なんてハッキリ言って精神が充実してる時に聴いたら恥ずかしくなるような曲なんだけど、精神的にまいってる時に聴くとホント救われるんだな、それこそ涙が滲むほど。 人は誰でも くじけそうになるもの ああ 僕だって今だって 叫ばなければ やり切れない思いを ああ 大切に捨てないで 人にやさしく してもらえないんだね 僕が言ってやる でっかい声で言ってやる ガンバレって言ってやる 聞こえるかい ガンバレ！ 正に冥土の土産へ持っていきたい珠玉の楽曲。多分一生聴いていくんだろうな。ザ・ブルーハーツ、自分の中では文句無しにNo.1のジャパニーズ・ロックン・ロール・バンドだね。 |