THE WHO
| THE WHO。今の若い世代じゃこのバンドの存在を知らない人も多いだろうな。そもそもザ・フーの知名度ってこの国じゃ昔から実に低いんだけど本国イギリスじゃビートルズ、ストーンズに次ぐザ・フーとまで言われる確固たる地位を築いたビッグネーム。 フーが結成されたのはビートルズやストーンズとほぼ同時期の60年代前半。初期の楽曲のイメージを一言で言えばうるさいビートルズって感じ。実際「キッズ・ア・オールライト」や「サブスティチュート（恋のピンチヒッター）」なんかは展開やハモりの部分も含めマージービート全盛期のビートルズに酷似してる。ただ、アレンジがビートルズに比べて非常に騒々しい。 この騒々しさを俺なりに分析すれば、まずドラミングが激しい、ギターのアタックが強い、ベースの音数が多い、といった所か。ボーカルもまあ猛々しいと言えばそう言えなくもないんだけど、ザ・フーほどボーカルが目立たないバンドも珍しいね。とにかく楽曲そのもののイメージをドラムとギターとベースが一体となって形成してる。 メンバーそれぞれを紹介すると、まずドラムのキース・ムーン。甘いマスクで初期の頃は最も女性ファンの人気を集めた男なれど、バンドに加入したキッカケがオーディションでいきなりドラムを叩き壊し、メンバーから「凄え！こいつはキチガイだ!!」と見初められた事だったという変人。 この男にまつわる破壊的なエピソード（ツアー先では毎回ダイナマイトを爆発させたかの如く部屋が破壊されてしまうので泊めてくれるホテルが無くなってしまった等々）はその後も数々生まれる事になるんだけど、70年代後半にクスリのやり過ぎで死去。とにかくステージ上のドラミング以上に激しい私生活を送った人。 次にギターのピート・タウンゼンド。類い希なる才能を持つコンポーザーとしてフーの楽曲の大半を作り上げた才人なれど、ステージ上での狂人ぶりはキースと張り合うほどで、そのギタープレイ以上にステージアクション（右手をブンブン振り回す自称ボーリング奏法に加え、最後には必ずギターを叩き壊す）でその名を馳せた男。 この狂人２人の演奏を骨格からガッチリ固めたのがベースのジョン・エントウィッスル。サイレンス・マン（静かなる男）の異名をとる地味な印象の人なれど、音楽面でメンバー中最も過激だったのは間違いなくジョン。とにかくこの人のベースプレイは圧巻。暴走するキースのドラムとピートのギターを確実に支える事が出来たベーシストはロック界広しと言えどもこの人だけ。私的にはクリームのジャック・ブルース、レッド・ツェッペリンのジョン・ポール・ジョーンズと並び称される世界一のロック・ベーシストだと思ってる。 そして、このバンドのボーカルを務めたのがロジャー・ダルトリー。本来ロックバンドはボーカルこそ全てであり、まず印象に残るのはボーカリストの筈なのに、ことザ・フーに関して言えばロジャーの影が非常に薄い。勿論、ロックバンドのボーカルを務めるような男は人一倍目立ちたがり屋で鼻っ柱も強いものだしロジャーとて例外じゃない。ところがこのバンドの場合あまりにもドラムとギターとベースの個性が強過ぎた。ロジャーもロジャーなりに頑張って目立つための努力をしたものの、結局は主導権を握ることが出来なかった不幸なボーカリストといった感じ。 ここまでの紹介でもお分かりいただけたと思うけど、このバンドを一言で表現すればバイオレンスの一語に尽きる。音楽面でもステージアクションの面でもこれほど過激なバンドはそうそう見当たらない。正に10年早いパンクであり、世の中の全ての物を否定する為に生まれてきたような70年代のパンクスでさえゴッドファーザーとして一目置いたのも至極当然の話。 とにかくこのバンドの魅力を知りたい方はアルバムを聴く前にライブ映像を観るべし。 これは本人達も言ってるけど、ザ・フーの真骨頂と言えばライブ。確かに優れたアルバムも多数作り上げてはいるものの、ステージの熱さに比べたら全くもって甘過ぎると言っても過言じゃない。 一番のお薦めはザ・フーのドキュメンタリー映画「キッズ・ア・オールライト」。この作品にはフーの初期からキースの死の直前までの熱いステージが網羅されているので、取り敢えずこの作品に触れればバンドの魅力は充分に堪能出来ると思う。 アルバムの事にも触れておくと、世間的にはロック・オペラ「トミー」や「フーズ・ネクスト」が最高傑作と言われてるものの、個人的には「ライブ・アット・リーズ（熱狂ステージ）」が一番のお気に入り。ライブ盤だからスタジオレコーディングの他作よりフーの醍醐味が存分に味わえるわけ。 特に１曲目「ヤングマン・ブルース」の荒々しいドライブ感とスピード感、更に言えば普通の奏法では表現し得ないギターのアタック感、ドラムのビート感はいつ聴いても壮絶。カッコいい。ゾクゾクする。 人によってロックという物の捉え方は様々だけど暴力的、破壊的な物だと解釈すればこのザ・フーほどロックが持つ側面のひとつを最も分かり易い形で体現したバンドも他にないと思う。そういった意味では究極のロックバンドに間違いなし。興味を持たれた方は一度聴いてみるのも一興かと。 |