| セブン・チャンス 監督バスター・キートン 1924年製作アメリカ映画 |
| 俺はサイレント時代のスラップスティックコメディが大好きだ。理由はとにかく単純明快だから。小難しい理屈は一切無しで観客を笑わせる事に命を懸けた男達の仕事ぶりにはひたすら脱帽するばかり。 チャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイド、ローレル＆ハーディ、誰もが偉大なるコメディアン達だけど、一番のお気に入りはバスター・キートン。この人はとにかく笑わない。クスリともしない。笑ってはいけない事を義務付けられたコメディアンである。しかしこの人の映画はメチャメチャに面白い。徹底的に笑わせてくれる。この「ストーンフェイス」がキートン自身のアイデアなのか映画会社のアイデアなのかは知らないけど、笑わずに笑わせるという姿勢は俺にとってもコメディアンの理想型。 そして何よりもアクションが凄い。ジャッキー・チェンも裸足で逃げ出すアクションの数々には正に圧倒されっ放し。しかしキートン映画はアクション映画ではなくコメディなので観る物に凄いと思わせてはいけない。どんなに危険なアクションであっても、そこには観客を笑わせる滑稽さが必要。笑顔を見せず、命を懸けたアクションを演じながら観客を笑いの坩堝に叩き込む。これがキートンという人の仕事。 観客である我々の使命はそのキートンの仕事ぶりを見て腹を抱えて笑うことだけど、この凄まじさは笑ってばかりいられない。その昔、池袋で開かれた自主上映会でキートン作品の一挙公開がされた時にはもう観客全員が拍手喝采で大変な騒ぎだった。でも、この人の仕事ぶりを見れば拍手も歓声も上げたくなる。勿論、俺も画面に向かって歓声を上げ拍手を惜しまなかった。今思えば凄く恵まれた環境でキートン映画を観られたと思うな。 ちなみにここで紹介するセブンチャンスもその時上映された。セブンチャンスは経営不振に陥った会社の経営者であるキートンの元に「27歳の誕生日の夜７時までに結婚をすれば祖父の遺産である700万ドルを相続する権利が与えられる」という幸運が転がり込む物語。 思いを秘めた女性はいるものの「遺産目的にプロポーズだなんて！」とフラれてしまい、困り果てたキートンは街ゆく女性全てにプロポーズをして歩き、共同経営者のアイデアにより花嫁を新聞広告で募集した所、数千人に及ぶ花嫁志願の女達に囲まれて逃げ回るハメに陥る。そして「やはり結婚するなら彼女しかいない！」と意中の娘の元へ走るキートン。山田宏一氏をして走る映画と言わしめたキートンの韋駄天走りは陶酔するほどに見事としか言いようがない。 とにかくこの映画に関しては言葉でどうこう説明出来ない。スラップスティックコメディの楽しみ方はとにかく観ること。キートン映画に触れた事の無い方は是非ご覧あれ。それがスクリーンの先であってもテレビ画面の先であっても拍手をせずにいられないキートンの偉大なる仕事ぶりが堪能出来る筈。 |